top of page

研究内容

応用物理学とは、自然現象における真理を追究することを第一目標としながらも、常に周りの社会のニーズや問題点を考察し、また、解決法を考案し実践していく学問です。当研究室では、応用物理学の中でも特に、ナノ構造材料と光の相互作用に基づくナノフォトニクスという学問領域の開拓を行っています。最先端の薄膜・ナノ構造作製技術を駆使して金属酸化物をはじめとする半導体から金属まで様々なナノ材料を作製し、新しい紫外発光素子、センシングデバイス、光触媒の開発を行います。

金属酸化物や金属の薄膜・ナノ材料は紫外発光素子や化学・物理センサー、光触媒における重要な要素です。金属酸化物としては主にワイドギャップ半導体である酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ガリウムに焦点を当てており、マグネトロンスパッタリングによる薄膜作製及び水熱合成による配向性ナノロッドの合成に挑戦しています。最近では、紫外発光デバイス応用を目指し、配向性酸化亜鉛ナノロッドのグラフェン上への直接合成を成功させました。液相レーザーアブレーションによる新規金属酸化物半導体ナノ材料創成も行っています。金属としてアルミニウムやインジウムを用いて、紫外プラズモニクスという紫外光を操る学術領域の開拓にも挑戦しています。紫外プラズモニクス技術を用いた紫外光の有効活用により、光触媒や太陽電池等への幅広い応用が期待されます。

薄膜・ナノ材料作製と構造制御

フォトニクス応用

作製した種々の薄膜・ナノ構造材料またはそれらの複合材料を基にして究極のフォトニックデバイスの実現を目指しています。高効率紫外発光素子、高感度・選択的ガスセンシングデバイス、高速光スイッチ、高輝度無機EL、高効率光触媒などの実現に挑戦しています。最近では、アルミニウムナノ構造材料を用いて、光触媒作用を十数倍へと増幅させる技術を開発しました。

用語説明

水熱合成

​異なる合成条件により作製された、様々な形状のZnO粒子

 水熱合成法とは高温高圧下、水の存在下で化合物を合成したり結晶を成長させる方法です。常圧で水が気体になる温度でも高圧下では水が液体のままで存在するため、常圧下では 溶けにくい物質でも溶かすことができます。一般的にオートクレーブと呼ばれる耐圧容器が用いられます。

 固相反応では固体内のイオンを拡散させるために1000℃程度の温度が必要な上、反応が完結しない場合も多く生成物の組成的な均一性は低くなってしまいます。それと比べ水熱合成法が必要とする温度は100℃~300℃程度と比較的低温で、生成される目的物質は高い結晶性を有します。また、温度や水溶液の種類、濃度、pHなど合成条件を適切に設定することで、得られる生成物の大きさや形状を制御することができるという利点があり、材料開発に多く利用されています。

ワイドギャップ材料

 ワイドギャップ材料とは、半導体において重要な物性値であるバンドギャップの値が大きい物質のことを言い、その性質からLEDのような発光素子や透明な電極、センサー、光触媒などに応用が出来ます。身近なものでいえば、電気自動車や鉄道、家電のような大量電力を扱う機器の電力制御に用いられるパワーデバイスも、その応用例のひとつとなります。

   当研究室で扱っているワイドギャップ材料の例を挙げると、ZnOやGa2O3があります。それぞれのバンドギャップは、約3.4eV,4.7eVと大きく、マグネトロンスパッタ法や水熱合成法、PLD法などでこれらの薄膜化を行っています。また、ワイドギャップ材料を素子として応用するために、熱処理やドーピングによる薄膜の結晶性や導電性の向上も試みています。

紫外発光素子への応用

透過スペクトル

(左)A. Wei et al., Nanotechnology, 17, 6, 174 (2006)

(右)M. Debbarma et al., Adv. Manuf., 17, 6, 183 (2013)

グラフェン

 グラフェンとは炭素が六角格子状に並んでいる厚さが一分子分の炭素のシートのことを言います。2004年にマンチェスター大学の教授により世界で初めて作製され、その6年後の2010年にノーベル物理学賞の対象となりました。それまでグラフェンが存在することは確認されていたものの実現は困難であると考えられていましたが、実際に作製可能であることが分かってからは研究開発が盛んに行われています。

 グラフェンには様々な優れた特性があります。例えば光学的には非常に高い透過率を有しており、単層の場合は可視光の97.4%を透過します。図は紫外域光から可視光までの透過率をグラフェンの層数ごとに示しています(S. Bae, et al., Nat. Nanotechnol., 5, 574–578(2010))。また、電気的には極めて高い電気伝導率を有しており、室温ではSiの約60倍以上です。この他の特性として高い強靭性や優れた伝熱性を挙げることができます。

 これらの特性を活かすことで曲げることが可能なディスプレイやフレキシブルかつ透明な太陽光パネルへの応用やトランジスタの高速化などが期待されています。また、金属酸化物との複合体を形成することで高性能なセンサーとして活用するなど様々な方面での応用が模索されています。

透過スペクトル

レーザーアブレーション

レーザーアブレーションとは、対象物に高エネルギーなレーザー光を照射し対象の表面を乖離させることで、金属などのナノ粒子や薄膜を生成する技術です。その原理は光による表面の局所的な加熱と蒸発なので、レーザー光の波長やパルス幅のみでなく、対象物の熱伝導率や表面の状態なども生成物の構造や生成物の量に影響します。 材料をナノ粒子や薄膜の形状にすることで新しく生まれる特性が近年注目されており、その応用性や有用性が期待されています。そのため多種多様な生成方法が提案されていますが、その中でもレーザーアブレーションは

  • レーザー光が遮られなければ液中やガス中など様々な雰囲気下で生成できる

  • 溶解などの前処理が不必要なため、高純度な化合物が生成可能である

などの利点があり、汎用性の高い技術です。

プラズモン

通常の原子は電子が原子核に束縛された状態にありますが、これが原子核から解放された状態のことをプラズマ状態といいます。また、金属も一種のプラズマ状態にあり、金属のことを固体プラズマと呼びます。金属ナノ粒子に光波を照射すると、光電場により金属表面の電荷の疎密波が発生します。これをプラズモンと呼びます。プラズモンと光波の振動数が一致する場合、プラズモンの励起が起こり、光が吸収されます。この特徴から、プラズモンは多くの技術に応用されています。

 プラズモンを用いた例として、一般的にはステンドグラスが挙げられます。ステンドグラスはガラスの内部に金ナノ粒子が含まれており、この粒子がプラズモンの効果により緑色の波長の光を吸収するため、赤色の光が目に届くという原理です。また、バイオセンサーや太陽電池への応用を目的に、光吸収の高効率化の研究が進められています。

bottom of page